労務・働きがい2023/08/31

コロナ禍後のエッセンシャルワーカーに対する企業の対応

論点

エッセンシャルワーカーは私たちの日常生活において重要な役割を果たしており、私たちが必要な基本的な必需品やサービスに確実にアクセスできるように舞台裏で精力的に働いてくれています。 普段それらは過小評価され、無視されることが多いですが、そのような中でも、より良い社会のために努力してくれている人も多くいます。 企業など雇用主は、彼らの仕事の価値を認識し、公正な報酬や福利厚生、正当な評価、やりがいの向上、感謝の意を表すために時間を割くなど、彼らをサポートしモチベートする体制を整えることが、これからの人材不足、競争社会を生き抜くヒントになる可能性があります。そして企業だけではなく、政府、一般人も含め社会全体での取り組みが重要となっています。

コロナ禍の縮小とともに注目が少なくなったエッセンシャルワーカー

数あるサイトの中から弊社のサイトを訪問していただき誠にありがとうございます。 今回はコロナ禍において、世界的に注目されたエッセンシャルワーカーについて再び考えてみたいと思います。

今では影を潜めたパンデミックですが、全く遠くない過去に全世界が、恐怖と混沌に追いやられたことが嘘のように平穏を取り戻しています。 パンデミック真っ只中の2020年、世界中でパンデミックの恐怖と直面しながらも、私たちの生活を維持してくれるエッセンシャルワーカーに感謝の気持ちを送ろうというムーブメントが起こりました。

エッセンシャルワーカーの定義は色々ありますが、特に緊急時や危機時に、社会の機能にとって必要不可欠なサービスを提供したり、重要な役割を果たす人のことであり、医療、輸送、食糧供給、緊急サービス、生活インフラ、福祉などの業界に多く属しています。彼らは通常、他の人が働いていないときでも働く必要があり、その不在は公共の安全と福祉に深刻な結果をもたらす可能性がある社会にとって欠かせない人々です。

しかし、その業務は平時は当たり前のものとして受け止められ、社会を支える縁の下の力持ちとして、あまり意識することはありませんでした。しかし、パンデミックという緊急事態が、私たちの生活の脆弱性とそれが当たり前ではないことに直面させ、エッセンシャルワーカーが浮かび上がってきたと言えます。 そして、その多くはパンデミックに罹患する可能性が高く、その多くがその重要性とリスクにも関わらず、社会的報酬が低いということが問題視されました。その多くが生活のため、自らの命をリスクにさらすほかない現実が浮かび上がりました。

そこでその恩恵に報いるため、国や企業によっては特別の金銭的支援を行ったりしました。一般の人のエッセンシャルワーカーに対する認識も変化しました。 しかし、パンデミックが縮小するにつれ、以前と同じようにあまり語られなくなってきました。それどころか、再び危機に直面しています。

少し前、英国で、鉄道員、教員、そして看護師などのエッセンシャルワーカーがストライキを行いました。これらのストライキは、物価高による貧困拡大、生活苦の問題に対する抗議として行われています。 賃上げが受け入れられなかったため、ストライキが決行され、社会的混乱をもたらしました。

エッセンシャルワーカーが直面する問題

エッセンシャルワーカーはその社会的意義や重要性にも関わらず、多くの問題に直面しています。それらは以下の通りです。

  • 長時間労働と過重労働: エッセンシャルワーカーは、夜勤、週末、休日を含めて長時間労働することがよくあります。 これは疲労、燃え尽き症候群、ストレスにつながる可能性があり、身体的および精神的健康に悪影響を与える可能性があります。
  • 高レベルのストレス: エッセンシャルワーカーは、生死にかかわる状況への対応、群衆の管理、緊急事態への対応など、高ストレスの状況にさらされることがよくあります。 この慢性的なストレスは、不安、うつ病、その他の精神的健康上の問題を引き起こす可能性があります。
  • 低賃金と雇用不安:エッセンシャルワーカーの多くは賃金が低い傾向があります。 また、予算削減やアウトソーシングによって立場が脆弱になる可能性があるため、雇用不安の可能性も高い傾向があります。
  • 認識と評価の欠如: エッセンシャルワーカーは当然のことと見なされていることが多く、その貢献が認識されないか、過小評価される可能性があります。 この認識の欠如は、フラストレーションや幻滅の感情につながる可能性があります。
  • 困難な労働条件: エッセンシャルワーカーは、極端な温度、騒音、危険物などの過酷な環境にさらされる可能性があります。
  • 昇進の機会が限られている: エッセンシャルワーカーは、キャリアアップや専門能力開発の機会が限られている可能性があり、キャリアのはしごを上ったり、収入の可能性を高めたりする能力が制限される可能性があります。
  • 偏見と差別: エッセンシャルワーカーは、特にスキルが低い、または望ましくない分野で働いている場合、職業に基づいて偏見や差別に直面する可能性があります。

これらはエッセンシャルワーカーが直面する問題のほんの一部です。それではその多くが働く企業においてその対応を考えてみたいと思います。

企業が問題改善のためできる取り組み

  • 労働条件の改善: 安全で健康的な職場を提供し、仕事量を軽減し、公正な報酬と福利厚生を提供することで、労働条件を改善できます。
  • テクノロジーへの投資: テクノロジーに投資して、手動タスクを自動化し、プロセスを合理化し、効率を向上させることができます。これにより、作業負荷が軽減され、生産性が向上し、エッセンシャルワーカーの負荷を減らすことができます。
  • オープンなコミュニケーションを促進する: 経営陣と従業員の間のオープンなコミュニケーションを促進して、従業員の懸念を理解し、発生する問題に対処できます。
  • トレーニングと能力開発の機会を提供する: 従業員が新しいスキルを開発し、キャリアを向上させるために、トレーニングと能力開発の機会を提供できます。
  • ワークライフバランスの促進: 柔軟なスケジュール設定、在宅勤務オプション、従業員の健康プログラムを提供することで、ワークライフバランスを促進できます。
  • 従業員を正当に評価し、報いる: 従業員の勤勉さと組織への貢献を正当に透明性を高くして評価し、報い、やりがいを高めることができます。
  • 差別とハラスメントへの対処: 差別禁止ポリシーの導入や全従業員に対するダイバーシティとインクルージョンのトレーニングの提供など、職場での差別とハラスメントを防止するための措置を講じ、仕事の内容や立場による差別と偏見を防止できます。
  • パフォーマンス指標の監視: パフォーマンス指標を監視して、従業員が苦労している可能性のある領域を特定し、従業員の改善を支援する的を絞ったサポートとリソースを提供できます。
  • 従業員からのフィードバックに参加: 定期的なアンケート、フォーカス グループ、タウンホール ミーティングを通じて従業員からのフィードバックを収集し、従業員の懸念を理解し、発生する問題に対処できます。

上記を踏まえ得た具体的な行動

  • 従業員満足度調査を定期的に実施して改善点を特定する
  • 経営陣にフィードバックや提案を提供するための従業員諮問委員会の設置
  • 在宅勤務や週の短縮勤務など、柔軟な就労オプションを提供する
  • 従業員のモチベーションを高めるための従業員表彰および報酬プログラムの提供
  • より包括的な職場環境を構築するためのダイバーシティおよびインクルージョン研修プログラムの実施
  • プロセスを合理化し、効率を向上させるための自動化ツールやグループウェアなどのテクノロジーへの投資
  • 従業員のキャリアアップを支援するトレーニングコースや認定プログラムなどの専門能力開発プログラムの実施
  • 定期的な部門・全体ミーティングを通じて従業員のフィードバックを収集し、サポートプログラムを構築する。
  • エッセンシャルワーカーに対する、健康・安全・安心を実現する倫理憲章の作成。

しかし実際にエッセンシャルワーカーが直面する問題を解決するには、企業だけではなく、政府、一般の個人などが関与する多面的なアプローチが必要です。そのため企業などの雇用主だけでは対応は難しいですが、密接に関わる機会が最も高い現場において、まずは変革していくことが、人材採用や確保の上でも有効となってくると考えられます。現在、そのような良い行いをする企業を正当に評価するステークホルダーが増えています。そしてやりがいの高さは生産性向上や創造性の向上に繋がり、競争力の改善も期待できます。

エッセンシャルワーカーと私たちの生活は繋がっている

私たちは根本の問題は、人の心にあると私たちは考えています。つまり、当たり前と捉えるか、有り難い(滅多にないこと)ことと捉えるかどうかです。このベースにある考え方だけでも、人への対応や取り扱う姿勢は180度変わってしまいます。 パンデミックの時にあれほど人々が、エッセンシャルワーカーに感謝したのは、有り難い(滅多にないこと)と捉えたからです。それが、給料をもらって働いているから当たり前と捉えれば、誰も気にしません。

そしてエッセンシャルワーカーの待遇の悪さや評価の低さの問題は、やはり当たり前という考えが社会的に根強いことの証とも言えます。これは能力主義的、実力主義的考え方とリンクしており、彼らはそれに相当するから、その立場なのだという考えが、受け入れられやすい傾向のためです。そのため、消費者など一般の個人にしても、それが仕事でしょと言ってしまい、議論は終了となりがちなのです。

しかし、本来は社会のエッセンシャルな部分に能力主義的要素と実力主義など社会的な序列に当てはめてしまうこと自体が、そぐわないことです。過度のビジネス的要素を導入してしまうことで、エッセンシャルな部分の質が落ちれば、また格差が2極化すれば、最終的にそれは私たち個人に跳ね返ってきます。 そしてそのような傾向はすでに現れています。地球の生態系1つの絶滅でも、私たちに何らかの被害をもたらすことが知られています。そしてこのあらゆるもの繋がりの強さもパンデミックで明らかとなりました。少し調和が崩れれば、大きな問題を引き起こします。

喉元過ぎれば熱さ忘れる。特にその傾向が強い私たちを含め、日本人は、パンデミックの経験を後世に活かすため、私たちもあの感謝の気持ちを忘れないため、この分野の取り組みの重要性を改めて認識し、行動していきたいと思います。