人事労務2022/12/08

「個」と「組織」と学び直し

論点

学び直し(リスキリング)は個人の競争力を高め、その結果企業の競争力を高めることで、世界との競争力を高めることに貢献する。産業間の人材移動を実現し、個人の働き方の自由度も高めると考えられているが、能力至上主義の加熱や自己責任など弱者と敗者への分断を進める恐れもある。特に北欧などの福祉国家にはセーフティネットがあり、バランスが取れている。日本では社員が幸せな企業は結果的に組織力が強くなり、競争力も高まる。日本型経営の新しい形のヒントがある。

日系企業における個の力と組織力

この度は、数あるサイトの名から弊社のサイトを訪問して頂きまして誠にありがとうございます。
ワールドカップは決勝トーナメントが始まり、白熱した戦いを見せてくれています。日本代表もあと一歩のところで敗れてしまいましたが、暗いニュースかった昨今、世界中に勇気を与えてくれたと感じています。

今回も前回に引き続き、ワールドカップをヒントに企業における組織を考えてみたいと思います。サッカーのチームの力をはかる場合に、よく個人の力があるチームと組織力のあるチームと言われたりします。個人の力が不足していても組織力で勝つことは珍しいことではありません。そしてその両方を備えた国が強豪国と言われます。

国や地域、人種によってその強弱が出ます。日本はで言えば、まだまだ組織力を強みとしています。ビジネスにおいてもやはり個人よりは組織力に強みをもっているのではないでしょうか。グローバル企業においては国籍はあまり関係ありませんが、従来の日本型経営の流れを汲む以上その形が強くなります。

これは、日本的な風土、日本人のメンタリティやその歴史的経緯が大きく関係しています。そしてビジネスにおいてはその雇用形態が大きな影響力を持ったと考えられます。昨今導入が進んでいるジョブ型の働き方は、世界のスターンダードであり、仕事に人を合わす形で、どちらかというと個人主体的なものですが、日本型雇用は、人に仕事を合わせる形で、組織主体のものです。これは解雇に厳しい日本型雇用と高度経済成長の家族主義的経営を考えれば、こちらの方がよりフィットしていたと言えます。そして「世間」、昔であれば「村」を重要な生存の場とする日本人において馴染みやすいものであったと思います。

かって「恥の文化」と海外から評されていたように、共同体に所属する構成員としての認識が強かったと思います。このあたりの詳細はここでは述べる余裕はありませんが、日本人のバックグラウンドから形成されるそのスタイルを想像することは難しくありません。

学び直し(リスキリング)と個の力

戦後日本も豊かになることで「個」が注目されるようになりました。これはライフスタイルや価値観の変化、グローバル化など要因が色々あると思いますが、組織的な世界で生きてきた中で、急に「個」を確立することはできず、「未成熟な個」と言われたりもしました。 しかしこの「個」の流れは昨今急速に進み、大手企業を中心にジョブ型雇用の採用が進むなど、どちらかといえば「個」主体の流れが加速していきました。

最近よく聞かれるようになってきた「学び直し:リスキリング」は新たなスキルを身につけることによって「個」の力を拡充し、新たな産業への移動や競争力の強化を図った意図があると思われますが、これは「個」に着目した考え方です。

そして雇用や働き方においても企業という組織から個人という視点へ急速に変化しています。フリーランスの増加や支援策の拡充などはその流れの最たるものです。これはバブル崩壊後の日本経済の膠着化を脱し、グローバルスタンダードへの適応を実現し、人材の産業間移動を即し、フレキシブルな社会を実現するなど多くのメリットがありますが、危惧すべき点もあります。

「個」の動きへのデメリット

自己責任・能力至上主義の加速です。雇用の流動化が進めば当然ながらその流れに乗ることができない人も増えてきます。これまで組織の中で何らかの役割を得て、その環境の中で生存する場所が急速に減少することが懸念されます。働かない中高年の問題などがありますが、これはその人材を活用しようとしない企業にも問題点があると言われています。

過度な能力至上主義は、勝者と敗者への分断を深め、勝者も敗者になる可能性を大いに含んでいるため、弱肉強食の経済競争がさらに進む可能性もあると考えれます。昨今の流れからセーフティーネットは整備される可能性がありますが、職業人生における敗北感は、時に心の問題と直結し、生活の補償だけではカバーしきれないことも想定されます。

そしてすべての人間は、いつかは必ず弱者となります。それは病気や障害等で近い未来かもしれないし、老齢化により先のことかもしれませんが、弱者を排他する世界はいずれ必ず自分の身に降りかかることなのです。

欧米のケース

現在の欧米社会、特に米国においてはこの過度の能力至上主義の傾倒への注意喚起が行われています。そしてこれは政治や社会の分断の要因の一つとなっているとも言われています。欧米でもヨーロッパでは労働組合の力が一定保たれていることもあり、ベースは「個」でありながらも社会全体を「組織」と捉えることで対処しているように見えます。

「福祉国家」とよばれる北欧の国などでは、「個」の競争が激化したとしても社会全体で、レベルの高いセーフティネットが構築されているため、自己責任・能力至上主義が加熱したとしてもそれはプラスの方向へ働くように思われます。 日本においては労働組合も弱体化しており、社会セーフティネットもそれらの国に比べて十分でないため、その対応が望まれます。

差別化とルーツ

そして特に危惧しなければならないのは、前述した日本的なルーツ、すなわち強い共同体意識と未成熟な個です。昨今のZ世代がニュージェネレーションとも言われますが、過去2000年で培ってきた日本人的な特性は簡単に失われることはないでしょう。そしてそれは強いアイデンティティとなっているからこそ、チーム一丸となって戦う日本代表に感度を覚える人が多いことが示しています。 これは大いなる差別化要因であることを認識し、その上で「個」のメリット特性を取り入れていくことが重要と感じられます。

企業の選択

今後は、「個」に注力する企業と「組織」に注力する企業への分化が大きくなってくることが想定されます。グローバル企業は特に「個」への動きを加速させていき、注目されるのが公務員が、「個」主体へ動くかどうかです。その上で中小企業を中心にその選択を図ることが重要となってくると考えられます。しかし、社員や取引先、顧客に優しい企業の多くは、「組織」主体であるケースである傾向があります。

しかし、それを構成する「個」のことをしっかりと考え、その幸せを願っています。それは風通しのいい、温かい社風に代表されます。そしてそういう企業が、高い競争力を保持していると考える時、ルーツへの認識とそれが差別化要因となっていることを考える時、時代の変化の中でも、時には確固たる信念をもって守るべきものは守り、取り入れるものは取り入れる勇気と努力の継続が必要と感じられます。

「個」が等しく幸せで、成長する気概に満ち、受動的ではなく、能動的な学び直しへの意欲が高まる時、本物の豊かな社会が実現するのかもしれません。

弊社では働く誰もが幸せを感じ、創造性高く、競争力の高い組織人材づくりを支援しています。